短時間だけ働ける「スポットワーク(スキマバイト)」が、保育施設を中心に広がりを見せています。
この新たな働き方が、子どもたちの育ちや保育の質にどのような影響を及ぼすのか、そしてどのような課題があるのかについて、保育の現場に詳しい専門家とともに検討しました。
(※2025年5月10日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
単発保育のリスクと制度の課題-保育のあり方を問う
保育士資格を持っていても、現場での経験がほとんどない人が単発で保育施設に入るケースがあります。
補助的な業務に限定し、経験豊富な常勤保育士が指導できればまだ安心ですが、その常勤保育士も十分な経験がない場合には、子どもの安全を守れる体制になっているとは言い切れません。
また、職員間での情報共有が不十分になりやすい点も、大きな懸念材料です。
過去には、散歩中に子どもが公園に取り残されたり、施設の外へ出てしまったりする事故が報告されています。
短期間だけ勤務する保育士の場合、子どもの顔と名前が一致せず、万が一誰かがいなくなったとしても、すぐに異変に気づくのは困難でしょう。
そのため、ヒヤリとするような場面が増える可能性が高まります。
継続して保育の仕事に従事する人であれば、日々の実務や研修を通じてスキルを高めることができますが、単発勤務ではそうした成長の機会が限られます。
現在のようにスポットワークが保育現場で広がる傾向は、保育の質の向上を目指す取り組みに逆行していると感じます。
また、子どもを性犯罪などから確実に守れる体制になっているのかという点にも、不安が残ります。
とはいえ、保育業界では人材不足が深刻化しており、正規職員に加え、パートや派遣の保育士を確保することさえ困難になってきています。
その背景には、保育士の給与水準が他の職種と比べて低いままであるという現実があります。
保育所の多くは開所時間が長く、十分な人員配置ができていません。
そのような環境で、正規保育士としてフルタイムで働き続けるのは非常に負担が大きいです。
近年では、あらゆる業界で時給が上昇しており、保育士資格を持っていても同程度の時給であれば、より条件の良い他業種を選ぶ方がいても不思議ではありません。
スポットワークの活用によって、保育現場の一時的な人手不足をしのげたとしても、根本的な解決にはつながりません。
正規保育士が安定して働き続けられるような環境を整えることは、国の責任です。
待遇の見直しを含め、職場に人員的な余裕が生まれる仕組みを構築しない限り、保育現場が抱える労働問題は解消されないでしょう。
保育の質を守るために必要なこと「常勤保育士の確保と制度の見直し」
こども家庭庁が自治体向けに出した通知では、スポットワークのような短期雇用を繰り返すことは「好ましくない」と指摘されています。
しかし、それだけでは現場の課題を根本から解決するには不十分です。
本来であれば、こうした働き方に依存せざるを得ないような深刻な人材不足を、国が放置してきたことが問題の本質だと言えます。
現在、保育士の採用は従来のように専門学校や大学経由で人材を確保することが難しくなっており、常勤職員であっても、紹介会社を通じて仲介手数料を支払うケースが増えています。
こうした背景もあり、スポットワークが手軽な選択肢として広がっているように見えます。
しかし、保育という仕事の性質を考えると、スポットワークの普及には大きな懸念があります。
保育には、子どもと継続的に関わることが求められ、職員同士の情報共有や日常的なコミュニケーションも非常に重要です。
子どもの名前や性格、日々の様子を把握していない状態で、突然保育に入ることは現実的ではありません。
私が運営する認可保育所では、採用の際に必ず面接を行い、これまでどのような施設でどのような業務に携わってきたのかを確認しています。
また、応募者自身にも職場の雰囲気を体感してもらうようにしています。
保育士以外の職種、たとえば用務員などであっても、子どもと接する場面がある場合は、適性があるかどうかや、他の職員と連携できるかといった点も丁寧に見極める必要があると考えています。
国に対しては、より抜本的な改善策を講じるよう強く求めます。
単発の働き手に頼るのではなく、安定して働ける常勤の保育士を増やすための制度改革と処遇改善こそが、保育の質を守るために不可欠です。
常勤保育士の負担軽減と処遇改善を!
今回の通知では、「子どもを長時間保育する場合は、基本的に常勤の保育士を配置すること」と明記されています。
しかしながら、短時間勤務の保育士を受け入れやすくするために規制を緩和してきたのは、ほかでもない国自身です。
こうした流れの中で、「短期的な働き方でも問題ない」といった認識が徐々に広がっていった可能性があります。
根本的な課題は、保育標準時間が1日最大で11時間と非常に長く設定されていることに加え、常勤保育士の労働条件が厳しく、賃金水準も低いため、人材の確保が難しくなっている点です。
このような状況が、現場の疲弊や離職の一因となっています。
国には、常勤保育士をより多く確保できるような制度の整備とともに、賃金引き上げを含む待遇の改善に早急に取り組んでいただきたいと強く願っています。
保育の質を守るためには、働く人が安心して長く勤められる環境づくりが欠かせません。