保育士の待遇改善は長年の課題です。近年政府は待機児童ゼロを目指しつつ保育士の待遇改善も進めていましたが、このコロナ禍で窮地に追い込まれています。
2015年から進められてきた「待機児童ゼロ作戦」と「保育士の待遇改善」
2015年より前の安倍政権下では待機児童ゼロ作戦という名のもとにさまざまな施策が進められました。
平均年収についても、2013年は平均310万円だったのに対し、2019年には360万円になるなど、効果を上げている部分もあります。
しかし、依然都心部では保育士不足が解消されていません。
子どもの年齢と人数で決まる給与の決定構造、これが問題?
東京経済大学の佐藤準教授(財政学)によると、保育士がなかなか定着しない要因に「給与の決定構造がある」と話しています。
保育所の収入が固定されてしまうため、ベテランの昇給が見込めないことが大きな要因になっているとのことです。
今の制度では子どもの年齢と人数を基準とし、それに自治体が独自に加算して、保育所の収入が決まります。そのため、収入がある程度固定されてしまうことになります。
一方で、保育士は経験年数によって昇格させる必要があります。利益を確保しようとすると、中堅・ベテランの雇用を避けなければ利益が出ないことになってしまいます。
そのため、経験の浅い若い保育士を雇っては辞め、雇っては辞め、を繰り返すことになってしまいます。これが悪循環を呼んでいるのです。
「保育士は結婚前の女性の仕事」で制度がスタートしてしまった
保育士は「結婚前の女性が短い間就く仕事」として制度が設計されてしまった経緯があります。そのため、保育士の技能に重点が置かれてきませんでしたし、「長く務める職業」という認識も欠けていました。このため、なかなか待遇の改善に繋がってきません。
現実問題、人の配置に余裕がない保育園が圧倒的に多く、産休育休を取ろうとするとハラスメントに遭ったり、新人なのに主任相当の重い責任を負わされたりするケースが後を絶ちません。
そのため、辛くなって辞めてしまう保育士が続出してしまいます。まだまだこの状況は改善されていないようです。
営利優先の企業が参入し、保育の質が置き去りに・・・
保育園不足が叫ばれた結果、急激に規制が緩和されました。そして保育園の開園に企業の参入が進みました。
保育園が増えるのは助かりますが、その一方で、人員を最低限しか配置せず、営利を優先する企業がどんどん参入することに。今問題になっているのは「保育の質が置き去りにされている」という懸念です。
2020年からのコロナ禍で、保育士の負担は増すばかりです。
「こんなに大変な仕事なのに報われない・・・」このように感じる人が増え、さらに人手不足に陥ってしまわないか、懸念が広がります。
今後、経験を積んだ保育士の技能が具体的に評価され、昇格されるようなしくみが必要です。
2021年5月19日(水)朝日新聞朝刊より出典・引用しています。
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